料理をすることを面倒だと考えている女性は若年、中年層の半数にもなる。成人女性の被雇用率が20歳代では76%、40歳代でも61%になり、夫婦共働き世帯は全国5300万世帯のうちの1000万世帯を超えている。だから、家事のすべてを女性がすることは肉体的にも、時間的にも無理があるのだが、食事作りは依然として9割が女性の分担になっているのが実情である。家事へのストレス感を調査してみると、洗濯が22%、掃除が56%、食事作りが65%で最も高いのである。

 当然の成り行きとして、食事作りにかける手間と時間を節約しようとする。すでに、外食や中食で済ますことが増えていて、毎日、三食とも食事作りをする家庭は減っている。毎日2回以上食事作りをする女性は20歳代で2割、30歳代で6割、40歳以上でも7割弱に減ってはいるが、それでも夕食は家庭で準備することが多いだろう。

 主婦が毎日八百屋や魚屋で買いそろえてきた生鮮食材を、台所で長時間かけて調理していた50年前に比べれば、電気冷蔵庫に1週間分を買い置きしておけるようになり、便利な加工食材や合わせ調味料あどが利用できるようになったから、夕食の支度時間は短くなり、現在平均60分である。、4割の家庭では40分までで済ませるようになっているが、、その時間をさらに減らしたいと考えている女性が5割を超えているのである。

 家族で暮らしていくために欠かすことができない食事作りが重荷になり、ストレスになるようでは問題である。テレビ番組などの影響で、凝ったグルメ料理を上手に作ろうとしすぎているのではないか。家庭の食事に凝った料理は必要でない。経済的で、簡単に作れるものでよく、1食ぐらい栄養が偏っていても何ら問題はない。まことに忙しい時や疲れた時は持ち帰り総菜で済ませてもよいし、外食店に出かけてもよい。調理に凝るよりは家族と食卓を囲むことを優先されることをお勧めする。

 「おふくろの味」という言葉はいつごろから使われるようになったのか。25年ほど前、バブル経済に浮かれ、連夜の接待美食に飽きた社用族が、子供のころに食べていた芋の煮ころがし、大豆や油揚げ、野菜の煮つけなどが母親の味として懐かしくなり、また食べてみたいと言い出したのが最初ではなかったろうか。

 東京近郊の子供を持つ主婦、400人に「我が家の味」をアンケート調査したところ、上位三品は餃子、肉じゃが、野菜の煮物であり、ハンバーグ、カレーライス、味噌汁、豚汁、から揚げ、きんぴらごぼう などがそれに続いた。昭和30年代、若夫婦が親と別居して家庭を持つようになると、それまで母親から娘へ、姑か嫁に伝承されてきた家庭の味はいったん途切れた。そして、若い世代の家庭料理は、料理スクール、テレビの料理番組、新聞雑誌の料理記事、学校給食などを参考にして始まったのである。

 その後、 だしの素、カレールウ、マヨネーズ、スープの素などに始まり、瓶詰のポン酢、ドレッシング、焼肉のたれ、めんつゆ、中華醤、最近では鍋物の出汁 など「合わせ調味料」が進歩、普及して、家庭料理の味は外食店の味に近くなると共に画一的にもなった。それでも、それぞれの家庭に我が家の味はあるだろう。

 そもそも、家庭料理は専門店のグルメ料理とは別の次元のものである。決して美食である必要はなく、経済的で、作りやすい簡単な料理であればよい。それよりも、作り手の愛情を感じながら、家族一緒に食べれば「おいしい」のである。「おふくろの味」とはそのような存在なのである。読者のおふくろの味はどのようなものですか。

 東北大震災が起きて、暖かいご飯を家族で食べられることが、どんなに大切なことかを気づかされた人は多い。特に、子供にとって母親の作ってくれる食事は心身の大きな絆になる。一人で食べても平気だよ などと言わせなくても済むようにしてほしい。子供の食事の世話をすることから食育は始まるのである。

  

 朝は忙しからと言って朝食を摂らない人が増えてきて、20歳代の独身男性では4人に一人、女性では5人に一人になっている。朝食を摂らない20歳代、30歳代の女性は30年前に比べると4倍近くに増えている。国民全体でみると13%の人が朝食を食べていない。朝食を摂るにしてもパンを食べる人が7割、サプリメントや乳製品、菓子だけで簡単に済ませる人、通勤途中の外食チェーン店で食べたり、コンビニで買ったものを会社についてから食べる人も多い。

 朝食は睡眠中に低下した体温を上昇させ、血糖値を上げて脳を活性化させ、体のリズムを昼型に整える効果があるのだから、欠食すると勉強や仕事の能率が悪くなる。イライラする、不安、体がだるい、面倒がる などのストレス症候も現れる。

 朝食を抜くだけではない。20歳代から30歳代の男性のサラリーマンでは1割近い人が昼食を食べていない。職場に弁当を持参する人は4人に1人である。当然、昼食を外食あるいは中食で済ませことになる人は20歳代から40歳代の男性なら2人に1人、女性でも5人に2人弱がそうである。夕食も若手のビジネスマンなら2人に1人、OLなら3人に1人は外食で済ませている。

 忙しい20歳代の若年世代では1日に3回、きちんと食をしている人は男性では62%、女性では76%である。それどころか、1日に1食しか食べない人が男性で6%、女性で2%もいる。また、20歳代の女性は行き過ぎたダイエットをする人が多く、そのため痩せすぎになっている人が30年前の2倍に増えて3割もいる。

 だから、20歳代では平均してみると男女ともにカロリー摂取量が所要量に比べて20%近くも足りないのである。中食や外食の利用が多くなると食事内容のコントロールが難ししくなる。コンビニ、スーパー、ファーストフード店での中食には高たんぱく、高脂肪の肉料理が多く、野菜、海藻、魚が不足している。そのためか、カルシウム、鉄、ビタミンなども不足気味になる。

 空腹さえ満たせばよいと考えて、食事の大切さを忘れているために、これだけ食料の豊かな時代でありながら若年層には栄養不足が起きている。

 東京近郊の小学生、中学生に聞いてみたところ、朝食を一人で食べている子供が24%、朝食も夕食も親と一緒ではなく一人で食べている子供が10%もいる。子供だけの食事であるから「子食」である。
 

 一人で食べる児童や生徒は食事がおいしくない、体がだるい、元気が出ない、心臓がドキドキするなど訴えることが多い。子供だけで食べているから、食べ物の好き嫌いが激しくなり、間食が多くなるなど栄養の偏りもが原因するのだろうが、家族と会話しながら楽しく食事をすることによって得られる くつろぎ、安らぎ、ゆとりなど が少ないことも影響しているのだろう。しかし、一人で食べるのはつまらないと訴える子供が24%いるのは分かるが、「なんとも思わないと」答える子供が54%もいるのには考えさせられる。

 小学生の5%、中学生の8%が、朝は眠い、食欲がない、朝食ができていない、食べている時間がないなどの原因で朝食を食べていない。母親が朝食をとらないケースであると、幼児も朝食を与えられないのが3人に1人いる。ひどい話である。

 朝食は栄養を補給するだけでなく、睡眠中に低下した体温を上昇させ、血糖値を上げて脳を活性化させ、体のリズムを昼型に整える効果がある。欠食すると勉強や運動の集中力などに影響することが科学的に証明されている。小、中学生45万人を対象にした学力テストを見ても朝食を摂っている児童、生徒のほうが成績が良いのである。高校生の体力テストでも、朝食を食べているグループは食べないグループより合計点が高いことが示されている。

 もちろん、朝食を食べさえすれば成績が上がるという単純な話ではない。きちんと朝食を摂るような規則正しい生活習慣を身に着けられるか、どうかが大切なのである。「早寝、早起き、家族そろって朝ごはん」で子供の生活リズムを改善しよう。これは食育運動の1課題である。

 

 「ヒトは食物を調理をして、仲間と一緒に食べる唯一の動物である」と言われている。動物は餌を食べるが決してこのようなことはしない。一緒に食事をすることは人間のみに許された文化行為なのである。昔は食料が常に不足していて、ご飯を炊いたり、パンを焼くことは主婦の大仕事であった。そこで食事時を決めて親子が集まって食事をするようになり、家族という共同体が生まれたという。

 家族以外の仲間と一緒に食べる「共食」も大切であった。邪馬台国の時代には部落の全員が集まって神様に酒と飯などを供えて豊作を感謝する祭りを行い、供物のお下がりを皆で飲食する「神人共食」がクニを治めるのに欠かせなかった。古代の貴族社会、中世の武家社会では一族郎党を集めての大宴会がしばしば行われた。料理の数や盃の巡り順などで主従関係、身分序列を確かめ、結束を固めたのある。近世になって食料の生産が増えて食事を楽しむ余裕が生まれると、富裕な商人たちは料亭に、職人たちは居酒屋に集まって知人と飲食した。農民も冠婚葬祭、田植えや稲刈りの骨休めには、ぼた餅や赤飯、寿司などを作り親戚、知人が集まって会食した。

 現代でも、結婚式や仏事、職場の旅行、慰安会、会社の0B会、同窓会、趣味の集まりなどには必ず会食がつきものである。、家族や仲間、知人と一緒に食事をすることは楽しく、素直にお互いの心を通わせる効用がある。食べものはどこにでもあり、外食や中食も普及していて、何でも、何時でもも、何処でも食べるだけなら不自由のない時代ではあるが、孤食、個食、バラバラ食では味気ない。

 食事をするのがバラバラになると、伝統的な家族という概念は崩壊する。すると、自分の意志で積極的に食事を一緒に食べる人を探さなければならなくなる。コンパニオン、COMPANION という語は仲間、伴侶、友人などを意味するが、COMPANIONのCOMは(ーーと共に)という接頭語で、PANはパンを表しているから、共にパンを食べる人というのが語源である。夫婦とか家族とかいう絆を振り払うのなら、自分と共に食卓を囲む人を新たに探さなければならない。 

 あなたにとってパンを一緒に食べてくれる大切な人は誰ですか?