多数寄せていただいた読者のご意見を読んでいると、10年ほど前に安全狂騒国とまで言われたヒステリックな状況は良識的レベルまで鎮静したように思う。しかし、安全と安心の違いについて十分に理解しておられない方もあるので、繰り返して説明してみよう。

 これまで経験したことのない遺伝子組み換え農産物、ダイオキシン汚染、BSE汚染牛肉、放射能汚染食品などがどれだけ危険なものなのか、主婦の常識や経験だけで判断できるわけはないから、専門家の科学的説明を素直に聞かなければならない。どのような毒性があり、どのくらい強いものであるかなどは科学的調査をすれば判明する。その科学的データを根拠にして、許容摂取量や残留基準などを定め、全頭検査など必要な検査をする。こうして、日常的な食事をするのに必要な安全性が確保されているのである。

 一方で、この安全性を保証する仕組みを理解したうえで、安心するか、しないかを決めるのは消費者である。「科学は難しい」と敬遠し、「科学といえどもすべてがわかるはずがない」、「万一ということがある」と説明も聞かずに反発する人は最近では少なくなった。しかし、説明は理解するが、食品メーカーや流通業者は偽装したり、隠したりしたから信用できない、安心できないという人は多い。「怖い」「食べるな」と大騒ぎするマスコミ報道もこうした消費者の不安を必要以上に助長している。

 安心できないからと言って行政に必要以上に厳しい検査や規制を要求しても、効果はそれほど期待できず、費用がかさむばかりである。行政や生産者がいくら良心的かつ誠実に対処しても、百万分の一以下に小さくなった危険性は排除できないものなのである。昔から食べ続けてきた食材にも、有機栽培の野菜にも、無添加の加工食品にもそれぐらいの危険性は潜んでいる。

 現状では健康被害を心配しなくてはならないほど大きな危険のある食品は流通していない。実際にできる限度まで安全になっているのだから、これでよいことにしようと考えれば安心できる。安全性の確保するように行政や生産者に求めることができるが、その結果をみて安心するかしないかは自分自身で決めることである。安心する、しないはあくまでも読者の勝手であるが、さてどちらを選択されるであろうか、知らせてほしい。

 

 食物の安全性を損なう物質は残留農薬や食品添加物をはじめとして、環境ホルモン、遺伝子組換え農産物、BSE汚染牛肉、鳥インフルエンザ、放射能汚染など、次々と現れ、事あるごとに「危ない、使うな、食べるな」と大騒ぎになる。

 このような不安を解消するために、平成15年、消費者の健康を守ることを最優先にする「食品安全基本法」が制定され、さらに食物の安全性を専門家が科学的に審査し、消費者の健康を守る対策を答申する「食品安全委員会」が設置された。これ以来、食品添加物や農薬の使用は以前よりも一層厳しく規制されるようになった。また食材の原産地や製造原料を確認する食品表示制度が拡充され、違法な使用や虚偽の表示を取り締まる体制や罰則も強化されている。

 このような対策が実施さ荒れた結果として、食品の危険性は以前に比べればずいぶんと小さくなり、日常の食生活に支障がないまでに安全性が確保されるようになったのであるが、消費者がそのことをよく知らないことが問題である。そこで、この食育ブログでは食品表示のルールや残留農薬、食品添加物、環境ホルモン、遺伝子組換え農産物、BSE汚染牛肉、放射能汚染などの危険性について解説してきた。

 しかし、「危険は少なくなった」と科学的根拠を示して説明しても、「科学的には安全らしいが、安心はできない」、「安全対策は整備されていても、それに従わない生産者や業者がいる」などと不安を訴える消費者はまだまだ多い。それは科学的根拠に基づいて客観的に判断した「安全」と、消費者が主観的に判断する心理的な「安心」とは別のものだからである。

 安全と安心の問題について次回から考えてみますから、ご意見、コメントをお寄せ下さい。

 狂牛病騒動は発生以来10年を経て、全頭検査で安全になったと思われているが、問題は残っている。実は狂牛病(BSE)に感染しているかどうかを検査する全頭検査に当初から疑問があった。生後20か月までの若い牛では(肉牛の大部分は23カ月ぐらいで食肉にする)感染しても異常プリオンが直ちに脳に蓄積するわけではないので、脳髄を抜き取って検査しても感染の有無を正確に判断できないからである。

 だとすれば、最近の数年では狂牛病の発症牛が途絶えているのだから、検査結果が確実でない全頭検査は省略して、念のため異常プリオンが蓄積しやすい脳や脊髄などの危険部位を除去しておくだけで安全と考えてよい。毎年125万頭を検査する費用は16億円にもなるので政府は全頭検査を中止したいのだが、地方自治体や外食業界が継続を希望するので中止に踏み切れていない。

 食品安全委員会の専門家は、運悪く感染牛の肉を食べ、さらに運悪くクロイツフェルト・ヤコブ病を発症する人は国内人口1億2700万人に1人あるか、ないかであり、汚染危険部位を除去しおけばさらに減って0。004人になると発表している。これで十分すぎるほど安全なのではないだろうか。国際獣疫事務局も、危険部位を除去しておけば牛の月年齢に関係なく検査は必要でないと判断している。アメリカでも、EU諸国でも食肉にされる牛の全頭検査は実施していないのに、日本だけが10年間も継続実施している。

 福島原発事故の影響で基準値以上の放射性セシウムに汚染されている牛肉が発見された。福島県は県産牛肉を全面出荷停止にするかわりに、県産牛の全頭検査を実施する方針であるが、検査態勢が整わない。食肉牛の全頭検査がこのような形で再登場するとは全く想定外のことである。

 放射能汚染した食品による体内被曝が起こす健康被害は、専門家にも未知の領域である。厚生省が定めた暫定基準値、牛肉1キログラム500ベクレルを超える3400ベクレルの汚染牛肉を、毎日200グラムずつ毎日食べ続けても年間許容被曝量、5ミリシーベルトを超えない。したがって、健康に影響するとは考えにくいのであるが、このような説明では消費者の不安は静まらない。BSE騒動の時と同じように、汚染の実態が判明し、それによる健康リスクの大きさが推定できるまでは全頭検査は避けられないだろう。

 しかし、BSE,放射能汚染のどちらのケースについても、汚染の実態が把握できて全頭検査が当初の役目を終えるか、あるいは汚染による健康リスクが科学的に解明されて、検査を継続する意味が薄れたと判断できれば、直ちに中止する勇気を行政当局と消費者の双方に求めたい。国家財政がひっ迫している折から、無用(?)の社会コストは極力節約しなければならない。

 

 

 

 食肉にする牛は解体の際に脳髄を検査してBSEの異常プリオンが蓄積していないかを 「全頭検査」する。もし、異常プリオンが検出されれば、その牛は全部廃棄して食肉にはしない。検出されなかった牛も、念のため異常プリオンで汚染されやすい危険な部位である 脳、脊髄、眼球、回腸遠位部を除去してから食肉にしている。

 さらに、国内で生まれた飼育牛1頭ごとに個体認識番号を付けて、その牛が何時、どこで生まれ、どこの農家で飼育され、どこの処理場で食肉に処理されたかを記録するトレーサビリティ制度が発足している。店頭の食肉や焼き肉店で出される精肉についている10桁の認識番号をホームページで検索すると、原料牛の出生情報を知ることができるから、万一、感染事故が発生すれば直ちにその原因を飼育農家まで追跡して対処できる。

 平成15年にアメリカでも狂牛病に感染した牛が発見されたので、アメリカ産牛肉の輸入がストップした。牛肉はアーストラリアあるいはアルゼンチンから代替輸入されるようになったが値段は高くなった。

 アメリカでは年間3500万頭の牛を食肉にしているが、日本のように狂牛病の感染検査を全頭について実施していない。アメリカ産牛肉の輸入再開の条件として全頭検査を要求する日本に対して、アメリカでは疑わしい牛2万頭のみを検査していれば危険は十分予知できるとして全頭検査をする気配がない。そこで、暫定処置として異常プリオンの感染が少ない生後20か月までの若い牛の肉であり、危険部位を除去したものに限って輸入が再開された。安いアメリカ産牛肉は安全でないのだろうか。

 前話で日本では全頭検査が10年間も継続実施されていることを紹介したところ、それを知って安心したというコメントがあった。全頭検査が信頼されているのであるが、実は全頭検査に使われる異常プリオンの検出方法には盲点があるから、そんなに信頼できるものではないことを次話で解説して再度読者のご意見を聞いてみたい。