中食という呼び名は最初は持ち帰りの弁当や寿司をお店で食べる外食と区別した業界用語であったが、今では広く調理済み食品を意味すると考えるのがよいだろう。その内容は多岐、様々であり、料理品小売りとして、あるいは加工食品として集計されたりするので、正確な市場規模が把握しにくい。

 学校や職場で食べる給食は外食の一形態であるとみなされているが、家から持参する弁当は家庭食の延長である。持ち帰り弁当、寿司、高齢者向きの宅配食などは中食の代表であるが、、サンドイッチ、調理パン、、コンビニのおにぎり、テイクアウトしたハンバーガー、フライドチキン、餃子、出前寿司、宅配ピザ、屋台で売られている焼きそば、たこ焼きなども中食であろう。ところが、食パン、漬物、つくだ煮などは家庭内食に使われるとみなされている。

 冷凍のコロッケ、カツ、米飯、レトルトのカレー、シチュウ、インスタントのカップめんなどの加工食品も家庭内食に使われているが、、中食とみてもよいものだろう。肉屋の揚げたてコロッケ、鮮魚店の刺身や焼き魚などは惣菜である。惣菜の大部分は総菜専門店、スーパーの総菜コーナーとコンビニの惣菜コーナーで売られている。デパ地下(デパーの地下食品売り場)ホテイチ(ホテル1階のレストラン売場)のグルメ惣菜も人気がある。

 約15年ほど前、アメリカで流行していたHMR (ホームミールリプレイスメント)の移入が計画されたことがある。スーパーの売り場で買った食材を店内の調理コーナー(イートイン)に持ち込んで好みに合わせて調理してもらって食べる方式である。東南アジアのフードコートにも似たようなものがる。しかし、日本では店売りの惣菜が発達していて便利であるので、実現しなかった。

 朝の出勤の途中でカフェかコンビニによりテイクアウトしたサンドイッチなどを会社に着いてから食べ、カップコーヒをすする。昼はコンビニで弁当とお茶を買って職場で食べる。夜は帰り道のスーパーで揚げ物、煮物とサラダを買い、家でパックご飯を温め、インスタントみそ汁にお湯を注いで食べる。このように、外食ではないが、調理らしい調理をしないで食事をする機会が増えている。

 持ち帰り弁当屋、コンビニ、スーパーなどで販売されている弁当、総菜、ハンバーガー、調理パン、おにぎり、寿司など「中食」といわれる持ち帰りの調理済み食品が、ビジネスマンや学生、高齢者の昼食、夕食に重宝がられている。中食の総売り上げは最近の30年に急増して6兆円といわれている。

 外食店で食べる「外食」ではないが、家庭で作る「内食」でもない、その中間に位置する「中食」が増えて、食事は家庭で用意するものというこれまでの概念が大きく変わることになった。平成12年度の家計調査によると、家庭の食費の10%が中食に、17%が外食に支出されている。両方合わせると食事の27%は調理をしないで摂っていることになる。40年前には家庭で調理して食べるのが普通であったから、この比率は10%であった。今では日常の食事の3割は調理をしないで食べているわけで、若年単身世帯なら7割にもなるという。

 生鮮食料を買ってきて主婦が台所で調理をし、家族そろって食べるという従来の食事形態から、調理済み食品を買ってきて済ませるか、あるいは外食店に食べに行くというように変化した。忙しい現代生活であり、夫婦そろって職業を持つことが普通になっているのだから当然なのかもしれないが、食事作りの手抜きと引き換えに、おふくろの味や食事時の家族の団欒など失ったものが多いのである。

 先週、外食の市場規模は25兆円であると紹介したところ、それに比べて、年金給付額は50兆円だというコメントがあった。外食市場が大き過ぎるのか、年金額が少な過ぎるのか、あるいはその逆なのか、受け取り方は人さまざまであろう。

 外食することが増えているのであるが、その内容はどうであろうか。専門の統計では「外食とは家庭外で食事をすること」と解釈して、学校給食やファーストフードも外食に含めている。しかし、一般の人の感覚では、給食やファーストフード、ラーメン、そばなどは家庭食の延長であって、外食とは思っていないであろう。

 では、外食らしい食事ができるレストランや料理店ではなにが食べられているのであろうか。朝日新聞の読者モニター3000人に「好きな外国料理」を五つ選んでもらった結果を紹介しよう。7割の票を集めるほど人気があったのは中華料理とイタリア料理である。1位の中華料理は北京ダックやマーボー豆腐、ヤムチャ、餃子、担担麺などが人気メニューになっていて、また、大勢で円卓を囲むにぎやかな雰囲気も魅力なのであろう。2位のイタリヤ料理は魚介類をオリーブ油で調理するヘルシー感が受けるらしい。パスタやピザなどが手軽、安価に食べられるのも人気である。

 3位と4位はフランス料理と韓国料理であり、どちらも4割を超える票を集めた。フランス料理は本格的な高級感があるが、バター、クリームを多く使うので高カロリーだと敬遠されがちである。韓国料理といえば焼肉とキムチであったが、韓流ブームで韓国家庭料理にも人気が出ているらしい。5位は魚介類を使うスペイン料理、6位はカレー料理など本場のインド料理である。7位はタイ料理、8位はロシア料理、9位はベトナム料理、10位はドイツ料理の順であるが、どれも1割程度の票を集めただけである。

 日本のように、家庭の料理が和風、中華風、西洋風の混成になっているのは世界でも珍しいことであるが、レストランに行けば世界中の国の料理が食べられる国も珍しい。どちらにおいても、伝統的な和風料理は影が薄いのであるが、居酒屋では人気メニュウ・ベストテン(同じく朝日新聞調査)が焼き鳥、枝豆、刺身、鶏から揚げ、揚げ出し豆腐、野菜サラダ、冷奴、おでん、焼き魚、もつ煮込みと和風ものばかりなのはなぜだろう。とにかく、食の実態調査とその解釈は難しい。

 

 大阪万博が開かれた昭和45年に、外資系のファーストフード・ショップやファミリーレストランの日本進出が解禁された。それまで家業として家族規模で営業していた飲食店業界にフランチャイズ・チェーン経営の外食産業が加わったのである。高度経済成長のおかげで生活に余裕ができたので、日曜日には家族一緒にマイカーでドライブを楽しみ、帰りにファミリーレストランで食事をする「ニューファミリー族」が現れた。食事のレジャー化の始まりであった。

 そもそも、日本人が家庭外で飲食できるようになったのは江戸中期からである。神社、仏閣の門前町に簡単な食事を提供する茶屋ができ、やがて江戸の街中にうどん屋、そば屋、てんぷら、鮨、鰻などを売る屋台店が多数できたが、それでも庶民が家族で食事を家庭外ですることはめったになかった。著者は戦前に幼年時代を過ごしたが、たまにうどん屋の出前を取ってもらうか、デパートの食堂でホットケーキを食べさせてもらうのがうれしかった。戦後、集団就職で東京に出てきた地方の中学生が食堂で食べさせてもらったカツドンのおいしさに驚いたのも無理はない。

 それから50年たった今、外食することはもはやレジャーではなく、日常のことになった。家族そろって外食するのが月に1,2回、多ければ週に1,2回あるという家庭が4割ぐらいもなている。

 外食の市場規模は25兆円にまで拡大し、人口1人あたりにすればアメリカの2倍にもなるという活況ぶりである。その内訳をみると、食堂、レストランが47%であるが、学校、職場、病院などでの給食が15%になっている。これらの集団給食は戦前にはなかった外食の形態である。そのほかには旅館、ホテル、居酒屋、料亭、バー、喫茶店などがある。

  いわゆる飲食店は全国に39万店あるから、平均して100世帯に1店舗があることになる。もっとも数が多いのは一般食堂の7万店であるが、日本料理店が4万店、中華料理店が6万店、西洋料理店が3万店、そして、うどん、そば店が7万店あり、現代人の食の多様性を反映している。

 かつて「ふぐは食いたし、命は惜しい」と言われたふぐ料理の季節になった。皿に敷くと下の絵が透けて見えるほどに薄い刺身に細い安岡ネギともみじおろしを添えてポン酢で食べ、熱いひれ酒を飲めば至福の時である。しかし、ふぐには猛毒があるので専門の調理免許を持った調理師でないと調理してはならないと定められているが、それまではフグの毒で死ぬ人が多かった。松尾芭蕉もふぐを食べて「あら何ともなや 昨日は過ぎて ふぐと汁」と詠んでいる。ふぐの刺身を「てっさ」、ちり鍋を「てっちり」と呼ぶのは鉄砲玉(毒)に当たるかもしれないという洒落である。今でも毎年、50人ぐらいが素人料理で中毒を起こし、数人が死亡している。

 ふぐの毒の正体はテトロドトキシンという化合物であり、水に溶けず熱に強いから水洗いしても、煮ても毒は消えない。テトロドトキシンは肝臓、卵巣、眼、腸、皮に多く蓄積しているので、これらを除外して食べる。致死量は1-2ミリグラムであり、一個の肝臓で数名を殺すことができる。テトラドトキシンは神経毒であり、中毒が軽ければ唇がしびれる程度で済むが、ひどければ全身の神経が麻痺し、呼吸ができなくなって死亡する。生命の危険があるのにふぐを食べようとする日本人の心理を理解できない外国人はオリエンタル・ミステリーだと不思議がる。

 食用にされているふぐは7種類ぐらいあるが、トラフグ、マフグがおいしい。年間1万トンぐらいのふぐが食べれれているが、その2割は下関の南風泊市場で取引される。1尾、1キログラムが2万円ぐらいで競り落とされる高級魚である。

 テトロドトキシンはビブリオ、シュウドモナスなどの海生細菌が生産するもので、それがふぐの餌になる魚介類に生物濃縮されてふぐに蓄積されるのである。したがって、ふぐは漁獲された季節、場所により毒の強さが変わり、ごく稀には安全とされている筋肉にも毒があるもの、また危険な肝臓に毒がないこともある。現在市販されているふぐの約半分は90年代からは増えてきた養殖ものである。養殖のふぐは毒のない餌を与えているから無毒であるはずであるが、100%安全とは保証できない。石川県には、危険な卵巣を塩水に漬けてから麹と糠で2年漬けて無毒化して食べているところがある。とにかく、ふぐは謎の多い魚であり、ミステリアスである。